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電子顕微鏡観察業務のご案内

2026.01.28

お知らせ

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神戸試験センターでは抗菌加工や抗ウイルス加工された繊維製品、プラスチック等の非多孔質製品の性能試験を中心に実施しております。これら試験に加え、抗バイオフィルム活性の測定試験(ISO 4768)、特定タンパク質低減性試験(ISO 4333)、大型チャンバーを用いた浮遊ウイルス低減性試験など様々な試験構築に携わってまいりました。一方で、私たちは、試験の裏付けとなる微生物・ウイルスが関わる基礎研究にも精力的に取り組み、そこで得られた技術情報を発信することで、業界全体の発展に貢献できるよう努めております。

今回は2025年9月24日~26日にかけて三重県賢島宝生苑にて開催された日本防菌防黴学会の第52回年次大会の内容をご紹介いたします。この学会は微生物の制御を通じて衣食住に関連する環境の向上を図ることを目的としており、弊センターもこれまで様々なテーマで発表を行ってきました。
初日24日はポスター発表を筆者、翌25日はシンポジウム講演(タイトル:抗ウイルス性試験法)を弊センターチームリーダーの中嶋、最終26日は教育講演(タイトル:実空間衛生の課題と指針の全体像)で弊センター長の射本がそれぞれ行いました。最終日まで多くの方が関心を持って聴講に訪れて下さり、活発な議論が行われました。(上写真:中嶋、下写真: 射本)

また、電子顕微鏡による抗ウイルス剤評価の有用性についてポスター発表を行いました(タイトル:抗ウイルス剤効果の可視化:細胞培養基材へのウイルス付着を活用した超遠心不要な電子顕微鏡観察法-インフルエンザウイルス形態の直接評価)。そこで本紙面をお借りして、この「ウイルスの可視化(形を見ること)」についてご紹介します。ただ、なぜ私たちが「形」の可視化にこだわるのかをご理解いただくためには、まず、従来の抗ウイルス性試験で一般的に行われている「数」の測定法と比較しながらご説明するのが一番分かりやすいかと思います。そこでまず、ウイルスの「数」と「形」、2つの見方についてご説明します。

1.ウイルスの「数」の測り方と「形」の見方

抗ウイルス製品の性能評価では、「ウイルスの数、つまり感染力のあるウイルスがどれだけ減ったか」が求められます。この「数」は、ウイルスが宿主細胞に感染・増殖して細胞を破壊した結果できるプラーク(肉眼でも見える透明な穴)を数えるプラーク法で測定します。しかし、「数」の測定だけでは、ウイルスがどのように状態になっているのかわかりません。例えば、抗ウイルス剤によりウイルスの形がどのように変化したのか、なぜ・どのように効いたのか、というメカニズムまでは、「数」の情報だけでは不十分です。そこで、ウイルスの「形」を直接見る必要が出てきます。この「形」の変化を捉えメカニズムを解明するには、電子顕微鏡が不可欠です。なぜなら、インフルエンザウイルスは直径約0.1μmと、細菌(数μm)より小さく、光学顕微鏡で見える限界(約0.2μm)をも下回るからです。

プラーク測定

写真左:非感染細胞は青く染色。写真右:ウイルス感染した部分は、プラークとして観察。

2.電子顕微鏡観察の「舞台裏」:その「道具」と「技術」

次に、電子顕微鏡でインフルエンザウイルスを見るために、どのような準備がなされているのかについて、軽く触れておきたいと思います。一般的に、電子顕微鏡にはサンプルの表面を観察する走査電子顕微鏡、サンプル内部を観察する透過電子顕微鏡の2種類があり、観察目的に応じて使い分けます。

2-1.観察の土台:グリッドとは?

特に透過電子顕微鏡で観察する場合、「グリッド」と呼ばれる道具が不可欠です。これは直径約3mm、厚さが数十μm(1ミリの数十分の1)ほどの、孔(あな)の空いた金属製のシートです。この網目の細かさはメッシュと呼ばれます。紙やすり(サンドペーパー)の番号をイメージしていただくと分かりやすいかもしれません。紙やすりも数字が大きいほど目が細かくなりますが、グリッドも同様に、75メッシュよりも150メッシュの方が網目が細かくなっています。私たちは、観察対象や目的に合わせ、これらのメッシュ数やグリッドの材質を最適に選択しています。

グリッド

左から150メッシュ、75メッシュ、75メッシュ(支持膜付き)。一目盛は1mm

2-2.超遠心による電子顕微鏡観察のためのウイルス濃縮と課題

グリッド表面には孔が空いているので、最初に電子線が通り抜けられるほど極めて薄いシート(支持膜)を被せる必要があります。前の写真の「支持膜付き」グリッドで膜がわからなかったのは、この支持膜が、観察対象であるインフルエンザウイルス(直径約0.1μm)よりもさらに薄い、肉眼ではほぼ見えない透明な膜だからです。そして、観察に使えるウイルス液は、わずか数µL(1ccの1000分の1程度)と極微量です。この極薄の支持膜の上にウイルスを載せますが、電子線はグリッドの金属部分を透過できません。つまり、観察できるのは「孔=メッシュの上の支持膜」という限られたエリアだけです。ウイルスが偶然そのエリアに付着するのを待つだけでは効率が悪いため、事前に「超遠心装置」でウイルスを濃縮する作業が必要です。しかし、この超遠心分離という作業は、非常にデリケートな構造を持つインフルエンザウイルスに大きな物理的ストレスを与え、ウイルスの形を変形してしまうという問題がありました。これは、抗ウイルス剤の効果を正確に評価したい場合、致命的な問題となります。つまり、「薬剤によってウイルスが破壊された」のか、「回収作業の衝撃でウイルスが壊れた」のか、その区別がつかなくなってしまうのです。 私たちが本当に知りたかったのは「薬剤がウイルスをどう変形させたか」という純粋な効果で、そのためには、超遠心による影響をゼロにする必要がありました。

3.新開発手法:ウイルスの「あるべき姿」を観察する

筆者は、インフルエンザウイルスの基材への付着性に着目し、超遠心を使わないイメージング法を開発しました。この手法の最大の特徴は、電子顕微鏡に使うグリッドそのものを、ウイルス培養の容器として使う点です。まず、膜付きグリッドの上で細胞培養し、そこでウイルスを感染させます。すると、細胞から放出されたウイルスが、そのままグリッドの膜に付着します。あとは超遠心による濃縮作業を一切行わず、ウイルスが付着したグリッドをそのまま電子顕微鏡で観察するだけです。つまり、観察に至る過程で超遠心処理(物理的ストレス)がないため、インフルエンザウイルスの形態を自然な状態で観察できます。この手法で調製したウイルス表面には、インフルエンザウイルスに特徴的なエンベロープ構造(外側の膜)が、非常にはっきりと観察できました。

本手法で調整したインフルエンザウイルス(H3N2、写真左)とエンベロープ構造の拡大(写真右)、目盛りは0.1µm

4.抗ウイルス剤処理したウイルス可視化への応用

筆者は、この手法を用いて、80%エタノールがインフルエンザウイルスにどう作用するかを観察しました。比較のため、ウイルスが付着したグリッドに水だけを15秒作用させましたが、ウイルスの形態に全く変化は見られませんでした。次に、80%エタノールを同じ秒数で作用させると、ウイルスのエンベロープが破壊されるだけでなく、ウイルス粒子自体も顕著に変形・崩壊している様子が確認できました。このように、本手法はウイルスの姿を見るだけでなく、エタノールがウイルスのどこを破壊したのか、というプロセスを視覚的に捉えることを可能にします。

エタノール処理したインフルエンザウイルス(写真左)と水処理した同ウイルス(写真右)。目盛りは0.05µm(写真左)、0.1µm(写真右)

神戸試験センターではこのような特殊試験も行っていますので、お気軽にお問い合わせください。

・走査電子顕微鏡(SEM)撮影の詳細はこちら

<本件に関するお問い合わせ先>

一般財団法人 日本繊維製品品質技術センター(QTEC)
部署名:神戸試験センター
TEL:078-351-1891 E-mail:biseibutsu@qtec.or.jp