布団等の保温性評価(QTEC法)のご案内

季節外れの話題で恐縮ですが、布団の「あたたかさ」に関する話です。

寒い時期に使用する寝具には、当然ながら「あたたかさ(保温力)」が求められます。一般的に、あたたかい布団と言えば羽毛布団を思い浮かべるでしょう。羽毛布団があたたかい理由は、他の中わた素材(真綿や合繊わた等)と比べて空気を多く含み、軽くて体積が大きい(かさ高性に優れる)為です。

かさ高性の違い 左:羽毛布団 右:合繊わた布団


「布団のあたたかさ」に寄与する他の要因としては、通気性(空気の抜けにくさ)、吸湿発熱性(湿気が吸収されて熱にかわる現象)、キルティングの形状(縫い目の入れ方)、ドレープ性(体型への馴染みやすさ=隙間の出来にくさ)などが考えられます。


寝具の保温性能を評価する方法は、サーマルマネキンを用いた方法や各社独自の試験方法がありますが、日本において一般的と言える方法は定まっていないのが現状です。実は、日本工業規格に「JIS L 1911 ふとんの保温性試験方法」という規格が存在するのですが、当方が調査した限りでは当該規格に対応できる試験機関は存在しないようです。

海外ではどうかと言うと、英国では布団の保温性能を示す指標に「tog」という指標が用いられ、英国規格として試験方法が定められています。

QTECでは、現状調査やお客様のご要望を踏まえ、「再現性が高く、掛け敷き組み合わせの評価が可能で、試験コストを出来るだけ抑えた試験」をコンセプトに、新たな寝具の保温性評価方法「布団等の保温性評価(QTEC法)」を開発しました。



布団等の保温性評価(QTEC法)

発熱体を敷き布団及び掛け布団の間に挟み、発熱体を一定時間定温維持する為に要した消費電力量(kWh)を計測する。また、ブランク試験として検体を設置しない試験を行う。

下記の式より、保温率(%)を算出する。

W =(1-a/b)×100

W:保温率(%)

  a :検体を設置したときの消費電力量(kWh)

     b :検体を設置しないときの消費電力量(kWh)

試験環境:室温20±2℃ 湿度65±4%RH  

発熱体:大きさ103×52×3cm 設定温度:60℃
上面下面それぞれにシリコンラバーヒーター及び制御用の温度センサーを備え、外装のパンチングメタル、内部の断熱材から成るもの。


布団等の保温性評価試験機


検体を設置した様子


<特徴>

・扁平な発熱体を採用することで、布団を掛けた時の隙間を最小限に抑え、測定の再現性を高めました。※1

・計測項目を「発熱体の消費電力(一定の時間・設定温度)」として簡略化することで、試験コストを出来るだけ抑えました。※2

・掛け敷き組み合わせで評価することが可能です。掛け・敷き単体で評価することも可能です。

※1ドレープ性(体型への馴染みやすさ=隙間の出来にくさ)」は試験結果に影響しません。

※2「吸湿発熱性」や「潜熱特性(発汗に伴う熱移動)」は、試験結果に影響しません。



表1 試験結果の例

<掛け敷き組合せ※3>
①薄手の敷きパッドと薄手の毛布の組み合わせ   保温率 57.6%
②厚手の敷きパッドと厚手の毛布の組み合わせ   保温率 74.5%
③ウレタンマットレスと羽毛布団の組み合わせ   保温率 91.6%


※3 発熱体を裸状でパイプベッドの上に設置した場合をブランクとし、上下ヒーター消費電力量の合計値から算出した。


<掛け布団※4>
④薄手の毛布                      保温率 60.2%
⑤側地にポリエステルの起毛素材を用いた合繊わた布団   保温率 83.2%
⑥羽毛布団(ダウン90%フェザー10%)           保温率 92.0%


※4 ブランク、試験品測定共に「ウレタンフォームマットレス」を使用し、上部ヒーターの消費電力量値より算出。


試験結果の例を表1に示しました。

数値が高いほど保温性能が高いことを示していて、商品毎の保温性能が数値化出来ていることが分かります。

表中の⑤で示した検体、実は筆者の私物です。

今年4月下旬のことです。桜の花も散り、新緑が芽吹き、季節の変わりを実感しながら冬季にお世話になった羽毛布団を片付けた後日でした。寒の戻りと言うのか、最低気温が2度まで冷え込んだ日があり、その日は外観的にあたたかそうに見えた⑤の布団を用いて就寝しました。

結果、寒くて目が覚めるほどで、夜中に押入れの毛布を漁りながら、羽毛布団との「あたたかさ」の違いを数値化してみたいと強く思った次第です。

試験結果の数値上では、羽毛布団の⑥と比べて約9%の差となりました。⑤は側地がボア生地になっており、見た目ではあたたかそうな印象を受ける製品だったのですが、おそらくは素材の特性上から通気性が高いと思われ、保温性能はさほど高くない製品の様です。


前記の例では、何も検体⑤の品質が悪いことを示しているのではなく、使用する季節や環境が合っていないだけで、冬並みに冷え込むと予報が出ていたにもかかわらず、羽毛布団や毛布の準備を怠った筆者が悪いのです。

「保温性が高い」と「快適である」はイコールではありません。言わずもがな、夏に保温性の高い布団を使用しては寝苦しく不快になるでしょう。季節や環境に応じた布団を用いることが「快適」に繋がります。

最近の量販店などの寝具売り場では、商品毎の「あたたかさ」を何段階かに分けて表現されているものを見かけます。きっと消費者に対して、季節や環境に応じた布団を選ぶ際の目安にしてもらう意図があるのでしょう。こうした商品毎の「あたたかさ」を比較する際に、「布団等の保温性評価(QTEC法)」をお役立て頂ければ幸いです。

問い合わせ先

福井試験センター
所長 杉本佳重
TEL:0776-23-7564

(QTECインフォメーション2019年発行 140号より)